No.2 戸田中央総合病院 兼坂直人先生/小林千佳先生
「地域がん診療連携拠点病院」として
質の高い“がん医療”を提供
2020年3月、戸田中央総合病院は高精度放射線治療装置を備えた放射線治療部門と緩和ケア部門を集約したE館を開院し、地域の中核病院として、より高度ながん医療を提供できる環境を整えました。今回の最新医療特集は戸田中央総合病院E館をピックアップ。放射線科については兼坂直人治療部長と東口陽向係長に、緩和ケア病棟については、小林千佳部長と小泉純子看護部課長に話を伺いました。
埼玉県ではたった2台
「AlignRT」搭載の放射線装置を稼働
―――まずは高精度放射線治療についてお教えください。
- 兼坂
- 高精度放射線治療とは、従来の放射線治療に比べて病巣に対して正確に放射線を照射し、かつ周囲の正常臓器への線量を低く抑えることが可能となった治療です。具体的には大きく2つの治療法があり、1つは「定位放射線治療(SRS/SRT)」で、あらゆる方向からピンポイント照射で小さい病巣を狙い撃つ方法で、もう1つが「強度変調回転放射線治療(VMAT)」で、装置が患者さんの周りを回転しながら腫瘍の形状に適した照射を行い、周囲正常組織への影響を最小限にする方法です。当院はE館開設を機に、両機能はもちろん、さまざまなソリューションを搭載した新装置「TrueBeam」を稼働させ、患者さまの病態に応じた治療を行っています。
―――特徴的な機能は?
- 兼坂
- 1つは、多発脳転移を1度に照射するソリューション「HyperArc」です。寝台角度を変更しながらVMATを多軌道で行うシステムで、複数病変への照射が可能となり、従来と比較して短時間で効率的に照射を行うことができます。また、呼吸の動きを監視し、治療に最適な呼吸タイミングで照射できる「体幹部定位放射線治療(SBRT)」に加え、照射位置ずれを最小限に補正して照射を行う「画像誘導放射線治療(IGRT)」機能があります。さらに、合わせて導入したのが「AlignRT(光学式患者ポジショニングシステム)」です。これは3つの高解像度カメラを使用して被ばくもなく患者体表面をモニタリングして、呼吸同期も息止め照射もできる技術です。同システムは、全国でも30施設程度、埼玉県では2台しか稼働していない特殊なシステムです。「AlignRT」や「HyperArc」はもとより、「体幹部定位放射線治療(VMATで行う肺への治療)」や「転移性骨腫瘍に対する定位放射線治療」などは国内どこでも行っているという治療ではありません。
―――操作面ではいかがでしょうか?
- 東口
- 医師・診療放射線技師・看護師、それぞれの仕事量は倍以上に増えました。理由は、事前の精度検証の項目が増したからです。ただこれは嬉しい悲鳴であって、高精度であるが故。今は患者さまの要望に沿った治療ができていると実感できているので、仕事にはやりがいを感じています。
―――治療効果は?
- 兼坂
- 装置を稼働して約2年、初期に治療した方の治療効果が今出始めている段階です。転移性肺がん5例、前立腺がん2例、いずれの症例も現段階で制御されています。
―――他院からの紹介は?
- 兼坂
- グループ以外からも依頼を受け付けています。脳転移に対する照射の場合(放射線治療のみ)、私が主治医になって入院を受けたこともあります。
- 東口
- 放射線科が入院を受け持つことは県南ではそう多くはありません。当院の高精度放射線治療は適応疾患が多岐にわたるので、患者さま1人ひとりの病態に合った治療が可能です。
―――放射線治療部門と緩和ケア部門を集約させたメリットは?
- 兼坂
- 放射線治療は「治す治療」と同時に「症状を抑える治療」でもあります。緩和ケア治療の選択肢の1つでもあるので、移送が少ない事は最大のメリットです。また、放射線スペースを広く設計しましたので、ベッドのまま治療できるのも当院の強みです。
- 東口
- 当院の装置は短時間で最大の効果を得ることのできるスペックを搭載していますので、従来だと1分掛かっていた照射が15秒で済みます。長時間同じ姿勢をとることが難しい患者さまに対応できるところも利点です。
- 兼坂
- 私が治療において大事にしていることは「最低限の副作用で最大限の効果」です。システム導入で、以前より誤差が少ないため、照射範囲を狭められ、結果、副作用も少なく済みます。今後はこの精度を維持していくこと。これが大切になってきます。
各職種の専門性を尊重し合う
「多職種カンファレンス」が最大の強み
―――緩和ケア病棟設計の際にこだわった部分は?
- 小林
- まずこだわったのが、スタッフの動線です。スタッフステーションとカンファレンス室を中央に置き、取り囲むように個室18室を配置しました。これにより、スタッフが素早く患者さんに対応でき、すぐに見守りができるような体制にしました。
- 小泉
- 比較的症状が落ち着いている患者さんでも、いつ容態が悪化するか分かりませんので、すぐに対応できる形態は看護師としてとても助かっています。
- 小林
- また、スタッフステーションをオープンカウンターではなく、ガラス窓付きにしました。緩和ケア病棟では一般病棟よりデリケートな会話が続きます。そういった話が患者さまはもとよりご家族の耳に入らないよう配慮する形で窓を設置しています。
―――他に特徴は?
- 小林
- オープンスペースを広くとり、談話室やラウンジ、屋上テラスを設置しました。テラスはベッドのまま行けるようにし、季節を感じていただけるようにしました。病室に関しては、柔らかな自然光が差し込むように大きな窓を設置し、トイレも車椅子が入るスペースを確保したり、ご自身で寄りかかれるような柵を付けたりして工夫しています。当緩和ケア病棟の面積は決して広くはありません。限られたスペースで、動線を考えながら、ケアの質を上げることを意識して設計を行いました。
- 小泉
- 照明も病棟にあるものではなく、ご家庭で使われているものを使用するなど、患者さまがまるで自宅で過ごしているような心地よい空間にしています。
―――新型コロナウイルス感染症で家族との面会等、苦労されたのでは?
- 小林
- 緩和ケア病棟のオープンとコロナの感染拡大がちょうど重なりました。なかなか希望通りにはいきませんが、面会を予約制として状況に応じて対応しています。
- 小泉
- 当院は全室個室でフリーWi-Fiも完備していますので、オンライン、ビデオ通話などを使って時間を気にせず、ご家族とつながることを喜んでくれる患者さまもいます。
―――貴院では10年前から「多職種緩和ケアカンファレンス」を催していると伺いました。
- 小泉
- 当院の自慢の1つが「多職種カンファレンス」で、医師だけではなく、看護師、薬剤師、理学療法士、公認心理士、栄養士、ソーシャルワーカー等々が集まって話し合います。各々の考えを尊重して、自由に意見交換できる文化が醸成されていることが自慢です。「患者さまやご家族はどのようなことを希望されているのか」をそれぞれの立場から検証していく。“多職種を尊重する”といったことを皆が理解しているのです。
- 小林
- 緩和ケア自体、「治療法はこれ」と決められる領域ではありませんし、治療方針について医師が質問したとき、患者さまが本音を言ってくれるとは限りません。たとえば、看護師さんがケアをしていたとき、患者さんがポツリと話す方が実は大切にしなくてはいけない部分であったりします。ですから、トップダウンで仕事を分担するようなカンファレンスは緩和ケアには意味がないと思います。もちろん答えは1つではありませんので、いろいろな情報を得て、そこから選択する、その結果をタイムリーに検証するという積み重ねが大事だと考えています。
―――本日はありがとうございました。