No.3 戸田中央総合病院 榎本正統先生
ダビンチによる大腸がん(直腸がん・結腸がん)手術を開始
TMGのフラッグシップとして先頭を走り続ける
戸田中央総合病院
消化器外科 部長
榎本 正統 先生
えのもと・まさのぶ
1999年東京医科大学卒業、外科学第三講座に入局。2021年11月東京医科大学消化器・小児外科学分野准教授に就任。2022年10月戸田中央総合病院消化器外科部長に就任。
【認定医等】
東京医科大学消化器・小児外科学分野 准教授
日本外科学会 専門医・指導医
日本消化器外科学会 専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医
日本消化器病学会 専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
日本がん治療認定医機 構がん治療認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医・ロボット支援手術プロクター
日本ロボット外科学会 専門医
手術支援ロボットダビンチCertificate
身体障害者福祉法指定医(ぼうこう又は直腸機能障害)
医学博士
日本大腸肛門病学会 評議員
日本内視鏡外科学会 評議員
日本臨床外科学会 評議員
戸田中央総合病院は2022年10月からダビンチによるロボット支援下直腸がん手術を開始。2023年3月からは結腸がんに対するロボット支援手術を行い、すべての大腸がんに対してのロボット支援手術を可能としました。そのチームを率いているのが消化器外科部長の榎本正統先生です。消化器ダビンチ手術のスペシャリストである先生に詳細を伺いました。
結腸・直腸がんに対する
ロボット支援手術のメリット
―――大腸がんに対するロボット支援手術のメリットを教えてください。
- 榎本
- まず、手術には「開腹手術」「腹腔鏡手術」「ロボット支援手術」の3つがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。開腹手術は高侵襲で低コスト、腹腔鏡手術は中侵襲で中コスト、ロボット支援手術は低侵襲で高コストです。低侵襲であるロボット支援手術は術後の痛みが少なく、早期の社会復帰が可能といった患者さまに優しい手術です。大きな利点は次の3つです。
1.排尿障害や性機能障害などのリスクを低減し、機能温存が可能に
がんは肛門に近くなればなるほど人工肛門となる可能性が高くなり、術後は排尿機能障害や性機能障害が起こるリスクが高まります。ロボット支援手術は人の手で行う腹腔鏡手術よりも正確で精密な動作が可能なため、骨盤奥深くまで操作ができ、直腸の横にある排尿や性機能を司る神経の束(骨盤神経叢)の組織にダメージを与えずにリスクを低減できるため、肛門機能、排尿機能、性機能を温存することが可能です。また、ロボット支援手術は開腹移行率が低いと欧米のメタ解析で明らかとなっており、腹腔鏡手術よりも有用であると言われています。
2.直腸がんだけでなく結腸がんもロボット支援手術が保険適用に
2018年に「直腸切除・切断術」が、2022年に「結腸悪性腫瘍手術」が保険適用となり、すべての大腸がんの患者さまに保険適用が拡大されました。
3.外科医のストレスが少ない
ロボット支援手術は術者が3D画像の拡大視野で操作できるうえに、手ぶれ防止機能が搭載されているため、精密で自由度の高い動作が可能です。また、直腸がん手術は非常に難易度が高く、腹腔鏡で質の高い手術を行うためには術者、助手、カメラ助手の3人すべてにスペシャリストとしての高い能力が要求されますが、ロボット支援手術は助手、カメラ助手の動作を術者自身が行うため、腹腔鏡手術よりも少人数のスペシャリストで行うことができます。大学病院並みの質の高い医療が提供できるところが当院の最大の強みです。
―――ロボット支援手術は高コストがデメリットだと言われています。
- 榎本
- そうですね。ロボット支援手術の最大のデメリットは高コストです。ただ、これまで「ダビンチ」(米国・Intuitive Surgical社)一択だったものから、初の国産品である「hinotori サージカルロボットシステム」が市場に出回ったため、これからは価格競争が起きて、ランニングコストが下がると考えます。そうなると、高コスト医療であったロボット支援手術が今後は標準医療になり、益々ロボット支援手術が普及していくものと考察します。
―――貴院では月にどのくらいの大腸がん手術を行っているのですか?
- 榎本
- 2023年1月は大腸がんの手術を12件、そのうちロボット支援手術は3件です。2022年10月から23年3月上旬までのロボット支援手術はトータルで15件です。2023年3月からは結腸がんに対するロボット支援手術を開始しました。
―――榎本先生が診療や手術で大切にされていることを教えてください。
- 榎本
- 患者さまにとって何が一番良い方法かを考えること、患者さまに選択肢を与えることです。当院では「開腹手術」「腹腔鏡手術」「ロボット支援手術」と3つの手術方法を提案できます。「ロボットでもできますが、〇〇さんには腹腔鏡がお勧めです」「腹腔内に癒着があるので開腹手術にしましょう」と、患者さまの状態に合わせて安全性、根治性を優先して手術方法を提案しています。
チームが一体となって
患者さんに貢献できていると実感
―――榎本先生は日本ロボット外科学会の専門医、日本内視鏡外科学会の指導医として後進への手術指導も行っています。
- 榎本
- 人を育てることはとても重要で難しいです。元プロ野球監督の野村克也氏の名言に「金を残すは三流、名を残すは二流、人を残すは一流」があります。素敵な言葉として心に留めているのですが、私も一流を目指したいと感じた言葉です。具体的にどうしているかというと、山本五十六が部下育成に用いた「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」を活用しています。まさに、この作業を繰り返し、ステップアップさせていくことを常に考えています。
―――今後の展望をお聞かせください。
- 榎本
- 当院はTMGのフラッグシップであり、消化器外科もそうであるべきだと考えます。高難易度手術を他の消化器にも広げていきたい。ただ、消化器外科だけではなく、他の科も当院がフラッグシップといった自覚を持ち、さらにブラッシュアップしていき、ともに一流の病院にしていきたいと考えています。また、私は手術だけではなく抗がん剤治療も行っているのですが、当院のコメディカルはとても熱心で、チームとして一体感をもって患者さまに貢献できていると実感できています。今後も皆とともに戦っていきたいと思います。
―――本日はありがとうございました。