No.5 戸塚共立第2病院 鈴木英一先生
“確かな診断・治療”と“早期復帰に向けた高度な
リハビリテーション”の両輪が揃う「スポーツ整形外科」
戸塚共立第2病院
副院長
整形外科部長(スポーツ整形外科)
Jリーグ 湘南ベルマーレ チーフチームドクター
鈴木 英一 先生
すずき・えいいち
1990年、香川医科大学医学部卒業。1992年、横浜市立大学医学部附属病院整形外科、1995年、藤沢市民病院整形外科に勤務。1999年、横浜市総合リハビリテーションセンター整形外科副医長、2001年、横浜市スポーツ医学センター整形外科副医長に就任後、2003年、イタリア・ローマ大学運動科学部スポーツ外傷学科修了。2004年、相模原協同病院整形外科副部長、2009年、神奈川県立汐見台病院整形外科科長に就任。2016年、戸塚共立第2病院整形外科統括診療部長に就任し、「スポーツ整形外科」を立ち上げる。2012年、ロンドンオリンピック男子サッカー日本代表チームドクターとして活躍、2020年からJリーグ湘南ベルマーレチーフチームドクターに就任、現在に至る。
【所属・役職】
日本整形外科学会 整形外科専門医・認定スポーツ医
Jリーグ 湘南ベルマーレ チーフチームドクター
日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会 所属
日本整形外科スポーツ医学会 所属
日本臨床スポーツ医学会 所属
日本足の外科学会 所属
神奈川県サッカー協会 医事委員
日本体育協会 公認スポーツドクター
「治療」と「リハビリ」を円滑に進め
“病院の価値”に繋げる
―――「スポーツ整形外科」とは?
- 鈴木
- 「スポーツ整形外科」とは、スポーツに伴う外傷や障害を治療する診療科です。専門医師が、ケガや故障に応じた診察・検査を行い、整形外科的保存治療からACL(膝前十字靭帯)再建術、関節鏡を用いた肩・肘・膝・足関節などの手術を行い治療します。当院では学生のスポーツ選手を中心に、プロスポーツ選手からスポーツ愛好家まで様々な方を対象としています。ここで重要なのが手術後のリハビリです。「再発を防ぐにはどうしたらいいか」「故障と向き合いながらいかに良い成績を収めるか」までを考慮した上で、理学療法士を中心にチームを組み、リハビリや傷害予防の指導にあたります。
―――2016年に開設された「スポーツ整形外科」。「戸塚共立第2病院と言えば“スポーツ整形外科”」と云われるまで躍進した要因をお聞かせください。
- 鈴木
- 「治療」と「リハビリ」が上手く噛み合っている事がひとつの要因です。現在、医師の他、岩本久生科長を筆頭に当院の理学療法士を、Jリーグやなでしこリーグ、WEリーグ、女子プロラグビー等で活躍するプロチームや学生運動部等の16チームに派遣して健康管理を行っています。直接選手と関わることで監督やコーチからの信頼が強固になるのはもちろんの事、選手がケガをしたら、すぐに当院医師が治療を行い、円滑にリハビリに繋げる体制を整えています。「スポーツ現場」と「病院」、この循環をスムーズにする事で、選手との信頼が生まれ、それが“病院の価値”となります。また、トップ選手を支えている事が話題になる事で、地元の中高生たちが当院に興味を持ち、来院してくれる場合もあります。そういった地道な活動が実を結んでいるのだと思います。
―――最新の治療について教えてください。
- 鈴木
- ひとつは再生医療である「PRP(多⾎⼩板⾎漿)療法」です。患者自身の血液から生成したPRPを傷ついた箇所に注入することにより、自己治癒力をサポートし、治癒促進や痛みの軽減を図ります。炎症や痛み、関節機能の改善や慢性化した関節痛にも効果が期待できます。自身の血液を使用するため、体への負担が少ない治療として今注⽬されている療法です。当院では2023年6月から導入し、1カ月で平均33~35件行っています。
もうひとつは難治性足底腱膜炎に対する「体外衝撃波治療」です。同治療はヨーロッパを中心に足底腱膜炎や腱付着部炎などの除痛を目的に応用されています。日本では2013年4月に難治性足底腱膜炎に対する保険適用が認められました。当院では神奈川県第1号として3年前に導入し、昨年1年間で210件施行しています。
―――他にはどういった治療を行っているのですか?
- 鈴木
- 私と勝谷洋文医師が中心となり、膝、足・足関節等の関節鏡視下手術を主に行っています。膝・足関節の関節鏡手術は2022年度年間で341件、そのうち前十字靭帯再建術は114件、半月板縫合術87件、足関節靭帯修復術は7件施行。また、アキレス腱縫合術18件、第5中足骨疲労骨折髄内挿入術も2016年から2023年まで44件施行しています。
また、「超音波ガイド下ハイドロリリース」、「集束型衝撃波治療」等も積極的に行い、今後は「TENEXⓇ」という超音波変性吸引器の導入を考えています。健常組織への影響を最小限に抑えながら、筋・骨格機能の回復を目指す施術です。
―――今後の展望をお聞かせください。
- 鈴木
- 将来的には、医療機関・トレーニング&リカバリー施設が融合した複合施設「横浜未来総合健康スポーツ医科学センター(仮)」を開設したいと企画しています。スポーツでの傷害からの競技復帰やパフォーマンス向上に必要なサポートを一貫して提供できる同施設は、スポーツ傷害の急性期治療に有効な「高気圧酸素治療」を備える等、高度なスポーツ医学的治療が可能となり、地域医療にも多くを還元できると期待しています。
現場で生まれる
「喜びの共有」がやりがい
―――スポーツドクターの魅力について教えてください。
- 鈴木
- スポーツドクターは選手を支えるやりがいのある仕事です。魅力は、チームスタッフとして知力を尽くした戦いに参加できることです。五輪出場を懸けた戦いに勝利した時やJ2からJ1に昇格した瞬間、現場で生まれる喜びを共有できる所にあります。我々は選手のケガを治して当たり前、単にケガの対応をしているだけでは指導者や選手たちからは満足されません。精密に地道に愚直に選手たちと向き合うことが求められるのです。その分、自分が診たアスリートがケガや病気を克服し、世界の大舞台で活躍する事が大きな喜びです。
選手とのエピソードで印象的なのは、現在プレミアリーグのリヴァプールFCで活躍する遠藤航選手です。湘南ベルマーレに所属していた2012年頃、肉離れを複数回再発させてしまい、8カ月間公式戦線から離脱。復帰戦後のインタビューで「メディカルの方々に大変お世話になった」とコメントを残してくれました。その時の感動は忘れませんし、彼との交流は今でも続いています。
―――鈴木先生が診療で大切にされていることを教えてください。
- 鈴木
- 患者さんの声をよく聞くことをモットーにしています。これは、医者になって最初に自分に立てた誓いでもあります。医学は常に進歩しており、医療技術は高度化しています。医師は知識と技術の習得に努めるとともにその進歩・発展に尽くさなくてはなりません。日々勉強ですし、それが私の使命であると考えています。
―――本日はありがとうございました。