No.6 戸田中央トータルケアクリニック 中西陽一先生
TMGのリソースを活かした“在宅医療”で
地域包括ケアシステムのモデルケースに
在宅専門診療所 戸田中央トータルケアクリニック
院長
中西 陽一 先生
なかにし・よういち
1998年、杏林大学医学部卒業。東京大学附属病院外科で研修後、日立製作所日立総合病院、都立多摩老人医療センター(現多摩北部医療センター)、公立昭和病院、東京大学胃食道外科を経て佐々総合病院外科で勤務。2017年、副院長を務め、2019年より同院に在宅診療部を立ち上げる。2022年8月、戸田中央トータルケアクリニック院長に就任。現在に至る。
2022年の開院から右肩上がりに訪問診療件数を伸ばしている戸田中央トータルケアクリニック。戸田・蕨を中心に、グループリソースを活かした在宅医療・介護で、地域に“安心”を提供し、患者さまやご家族から厚い信頼を得ています。今回はチームを率いる中西陽一院長に、“在宅医療”の道に進んだキッカケからクリニック成長の要因、在宅医療・終末期医療について、幅広くお話を伺いました。
急性期病院と自宅とを繋ぎ
病院の早期退院・在宅復帰に貢献
―――中西院長が“在宅医療”の道に進まれたキッカケは?
- 中西
- 佐々総合病院で外科医として務めていた時、救急で運ばれてくる高齢の方が増えてきたのを感じました。高齢の方のなかには、手術で病気が完治し、退院できる状態であっても、退院後の生活に不安があるために退院できないといったケースが少なくありません。そこで、急性期病院と自宅とを繋ぐ“在宅医療”が重要であり、必要だと感じたのです。一方、急性期病院は“在宅医療”が地域に存在することで、安心して患者さまを自宅に帰すことができるとともに、従来の役割である“治療”に専念することができます。
―――その想いから佐々総合病院で在宅診療部を立ち上げられたのですね。
- 中西
- TMGでも在宅医療に力を入れる方針が示されましたので、2019年から在宅診療部をスタートしました。意識したのは、患者さまを“きちんと地域に戻す”ことでした。入院直後から退院を見据え、かかりつけ医を探して繋ぐ役割を担うなど、退院後の生活サポートに尽力しました。そして、退院直後など、患者さま・ご家族が一番不安で心配する時期に介入し、不安を取り除くことに注力しました。ここで気を付けたのが、患者さま・ご家族の立場に立って物事を考えることです。医療従事者からみれば些細な事柄であっても、患者さまやご家族はパニックを起こす場合が多々あります。ですから、起こり得るすべての事柄を医師が想像して伝え、患者さま・ご家族が不安にならないよう丁寧に説明していく必要があります。
―――2022年8月、中西先生は在宅専門診療所である戸田中央トータルクリニックの院長に就任されました。貴院の特徴をお聞かせください。
- 中西
- 24時間365日対応していることと、当院のある戸田市には戸田中央総合病院をはじめとした急性期病院や戸田中央リハビリテーション病院などの回復期病院、介護老人保健施設が近隣にありますので、TMG所属病院・施設との医療連携体制が確立しているのが特徴です。たとえば、在宅療養中に突然入院が必要になったとしても、グループ病院にスムーズに案内できる体制が整っています。特にTMGの基幹病院である戸田中央総合病院は“緩和ケア病棟”を有していますので、“看取り”を行う当院としては大変頼りになる存在です。また、終末期医療を含めた在宅医療には高い知識と経験が必要です。TMGにはさまざまな得意分野を持つ医師が揃っていますので、あらゆる症例において対応が可能であるところも当院の強みと言えます。さらに、先述したように我々は病院と自宅とを繋げ、病院の早期退院・在宅復帰に貢献することができますので、双方にとってプラスになるだけでなく、それぞれの病院・施設がそれぞれの役割(急性期・回復期等)に徹することができます。
―――高齢化が進む現代社会において“在宅医療”は今後益々重要になってきます。さて、貴院の訪問診療件数についてお聞きします。開院時よりも大幅に増加している要因は?
- 中西
- 紹介患者さまをすべて受け入れているからだと思います。当院は断らない体制を整えています。近隣の訪問看護ステーション上戸田などにご協力いただき、受け入れのキャパシティを増やしました。人員も増やし、昨年7月からは訪問リハビリも始めています。やはり我々の強みはグループが持つリソースです。その強みを最大限活かすことが、地域の安心にも繋がるのだと思います。
グループの力を結集すれば
それが地域の支えとなる
―――“看取り”についてはいかがでしょうか。。
- 中西
- “待ったなし”のときに判断しないようにするのが我々の役割です。たとえば、老衰の患者さまの場合、段々と身体が動かなくなります。では、動けなくなったとき、排泄をどうするのか。ご家族が排泄の介助をするのか否か――動けなくなる前にご家族同士で話し合ってもらいます。ご本人は「家族に迷惑になる」と拒否する方もいますが、「やってあげたい」という家族が圧倒的に多いです。反対に、介助できないのであれば、出来ることを皆で考えて準備する。動けなくなった時では遅いのです。“看取り”に関しては、我々だけで出来るものではありません。患者さま・ご家族にどれだけ良い時間を過ごしてもらえるか、ご家族がどれだけ満足して送り出してあげられるかを一緒になって考えます。
―――終末期医療に関わるなかで、忘れられないエピソードがありましたら教えてください。
- 中西
- 戸田中央総合病院に入院していた50代、すい臓がん終末期の患者さまです。ご本人・ご家族から自宅療養の希望が強く、当院に依頼が来ました。ご本人は「死ぬなら絶対家で死にたい」とのこと。病院主治医と相談し、許可を得て退院。自宅に戻った時のご本人・ご家族の嬉しそうな姿が忘れられません。その後、患者さまは、家族・親戚の方々に見守られながら自宅で息を引き取りました。その時、ご家族から「戸田中央総合病院にかかって本当に良かった。TMGってすごいですね」との言葉をいただいたのです。グループの力を結集すると、これだけのパワーとなることが伝わったのが本当に嬉しかったですね。
―――今後の展望をお聞かせください。
- 中西
- ひとつは“救急医療”への対応です。現在、高齢者による救急搬送の増加が社会問題となっています。比較的軽い症状でも救急車を呼ぶため、本来必要な緊急搬送に影響が出てしまうのです。ただ、高齢者は重篤に陥る危険性も高いため、緊急性の判断が難しい。そんなとき、我々が介入し、対応することで、救急車や入院が必要なケースを示すことが出来ます。
もうひとつは、地域包括ケア病床を持つクリニックとして有床化したいと考えます。自宅での生活が不安な患者さまを短期間受け入れできる体制を整えること。ご家族のためのレスパイト入院※も可能となります。そういった1つひとつの取り組みが実現化すれば、地域全体の支えにもなりますし、戸田・蕨地域が他の地域のモデルケースとなるのではないでしょうか。
―――本日はありがとうございました。
※在宅での介護を担われているご家族が日々の介護に疲れを感じ、介護力の限界を超え介護不能となることなどを予防するための入院