No.8 戸田中央総合病院 瀧下智恵先生
肝胆膵領域における外科治療を地域で完結できる体制へ
東京医科大学病院と連携し高難度医療を提供
戸田中央総合病院
肝胆膵外科 部長
瀧下 智恵 先生
たきした・ちえ
2007年、熊本大学卒業。同大学医学部附属病院にて研修。2011年、がん・感染症センター都立駒込病院外科レジデントを経て、2014年、東京医科大学消化器・小児外科学分野に入局(助教)。2023年3月同講師。2023年4月より戸田中央総合病院の肝胆膵外科を担当。2024年7月より同病院 肝胆膵外科部長に就任。現在に至る。
【認定資格】
東京医科大学消化器・小児外科学分野 講師
日本外科学会 外科専門医
日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
日本膵臓学会 認定指導医
手術支援ロボットダビンチCertificate取得
日本肝胆膵外科学会 評議員
難易度が高い肝胆膵領域の外科治療
―――まずは「肝胆膵外科」についてお教えください。
- 瀧下
- 肝胆膵外科では、肝臓、胆道(胆嚢、胆管)、膵臓、そして近接する十二指腸にかかわる外科的疾患を診療しています。外科治療においては、胆石・胆嚢炎から、悪性疾患では膵臓がん(膵がん)、胆道がん、肝がんなど多岐にわたります。特に近年では膵がん手術の件数が増加傾向にあります。
―――“沈黙の臓器”とも呼ばれる膵臓は「がんが見つかった時には既に手遅れ」――そんなイメージを持たれる方が多いですよね。
- 瀧下
- 膵がんが何故増えているかと言うと、ひとつに高齢化が背景にあります。且つ若年性で発症するケースも少なくありません。昔は見つかった時には既に手術できない症例が多かったのですが、今は昔と比べて早い段階でがんが見つかる方が増えています。
―――肝胆膵領域の外科治療について教えてください。
- 瀧下
- 膵がんの根治を目的とした主な手術に「膵頭十二指腸切除術」と「膵体尾部切除術」があります。「膵頭十二指腸切除術」は膵がんのみならず、近接する胆道がん(胆管がん・胆嚢がん等)、十二指腸がんにも用いられる施術です。
肝胆膵領域の外科治療は、消化器外科領域のなかでも難易度が非常に高く、高難度手術に分類されているものが多く、日本肝胆膵外科学会にて肝胆膵高度技能修練施設や肝胆膵高度技能専門医の制度が設けられています。
―――肝胆膵外科治療のどういったところが難しいのでしょうか?
- 瀧下
- まず臓器の構造が複雑だという点です。また、体の奥深いところに臓器が存在し、その上、動脈や静脈、門脈などの血管や胆管が通い、周囲には臓器が密接しています。出血を避けながら安全に腫瘍だけを取り除くには、これらの構造を正確に理解する必要があります。また、「膵頭十二指腸切除術」は切除だけではなく消化器官類をつなぐ再建が求められます。膵管の長さは約3㎜です。それらをつなぎ合わせなくてはならないのです。
近年は“低侵襲手術”が増加の一途を辿っており、肝胆膵領域においても同様です。肝胆膵領域の外科治療に関しては、腹腔鏡手術に加えてロボット支援下手術に関しても「肝切除」「膵頭十二指腸切除術」「膵体尾部切除術」「総胆管拡張症手術」が現在保険適用となっています。
「先天性胆管拡張症」における
ロボット支援下手術件数は国内トップレベル
―――瀧下先生は2023年4月、戸田中央総合病院で「肝胆膵外科」を開設されました。その想いをお聞かせください。
- 瀧下
- 当院が位置する戸田市は人口が多い割に肝胆膵領域を専門で扱う病院・施設がこれまでありませんでした。高度技能修練施設においては埼玉県で9施設のみと少ないのが現状です。肝胆膵領域の外科治療を必要とする患者さんのため、そして専門医として地域に還元していきたいとの想いから「肝胆膵外科」を開設しました。
立ち上げには、日本の膵がん治療の第一人者で肝胆膵外科手術や低侵襲手術の症例を数多く行う東京医科大学の消化器・小児外科学分野の永川裕一主任教授にご協力いただき、看護師、検査技師、事務等、多くの方にご協力いただきました。東京医科大学との連携体制で、患者さんが安心して受診いただけるよう高い医療水準を保つように尽力しています。
現在は、地域のクリニックからご紹介いただく症例も増えています。私は地域のクリニックの先生と顔の見える関係を築くことが大事だと考えます。開業医の先生方が困っているのは「胆石」や「一般的な腸疾患」です。そういった症例も含めてご紹介いただけるのは大変ありがたいことだと考えます。
―――ことし6月、貴院は「肝胆膵外科高度技能専門医修練施設」の認定を取得しました。
- 瀧下
- 認定取得には一定の条件が揃っていなければなりません。必須条件としては、「肝胆膵高度技能専門医が常勤で在籍していること」「30症例以上の高難度手術を実施していること」「術前・手術・術後の安全性が保たれているか」等です。肝胆膵領域の外科治療は特に術後の管理が大事です。合併症が起きたときにどうリカバリーできるか。レスキューできる体制にしていかなければなりません。手術に加えて術後のフォロー体制が特に重要視されるのです。
また、“修練施設”とあるように、肝胆膵外科医を育てる環境にしていくことが私の役割でもあります。現在、修練施設には3人の研修生が在籍しています。
―――ロボット手術による肝胆膵外科治療を行っている症例はございますか?
- 瀧下
- ロボット手術において、当院では「先天性胆管拡張症」を去年4月に導入し、これまで15症例行っています。この症例数は国内トップレベルと言えます。「先天性胆管拡張症」は、拡張した胆管を切除し、胆管と空腸を吻合させるという繊細な手技を必要とする難易度が高い手術です。同手術は、永川教授にご協力いただき、私はオペレーターとして参画しています。このロボット手術における「先天性胆管拡張症」はどこでもできる訳ではありません。「肝胆膵外科高度技能専門医修練施設」を認定取得している当院だからこそ実現できているといえます。
―――瀧下先生が患者さまと向き合うなかで大切にしている事は?
- 瀧下
- 患者さまはもとよりご家族のお話に耳を傾けることを大事にしています。一人ひとり患者さまの考え方は異なります。患者さまは何を望んでいるのか、何を求めているのか――、もし自分だったら?自分の親だったら?というところまで考えて話を聞くようにしています。そして患者さま・ご家族のご希望に添いながら治療方針を決めるようにしています。
―――今後の展望は?
- 瀧下
- 肝胆膵外科を開設して約1年半。おかげさまで患者さまの数も増え、最近では“求められている”と感じています。今後は地域の症例をさらに増やし、且つ地域の方が都内に行かなくても、戸田の地で大学病院並みの高度医療を受けられることをアピールしていきたい。そして、肝胆膵外科治療において、手術から術後フォローまで一貫して完結できる治療体制を整えていきたいと考えます。また、ロボット手術に関しては今後、膵頭十二指腸切除等を含めた高難度手術もフルでカバーできる体制にしていきたいです。さらに、TMG内の連携を強化し、肝胆膵外科治療でTMGの皆さまのお役に立てたらと考えますので、何でもご相談いただければと思います。
―――本日はありがとうございました。