女性の健康問題はライフステージの中で様々な変化があるといわれています。その中でも妊娠中から産後の経過は身体症状や心理状態、環境変化が大きいことから、女性にとって大きなライフイベントになります。妊娠中、産後の身体症状の中で多くの妊婦の方が何らかの運動器系の症状を経験し産後も慢性的なものに移行するため、早期の予防や治療が望まれます。腰痛・骨盤帯痛、筋の損傷、手根管症候群などの運動器系の身体症状や、尿失禁などの泌尿器系の身体症状が代表的です。私たち理学療法士や作業療法士の立場から適切な評価、治療が可能な分野ですが、ほとんどの場合が積極的な治療が行われていません。様々な身体症状に対して、お母さん自身や周囲の理解が乏しく、医療機関も整っていないためどこへ相談すれば良いのかわからない方が多いようです。また、産後に職場復帰を目指すお母さんは自身の回復に目を向ける時間が後回しになってしまうことも少なくありません。
そこで当院では、赤ちゃんだけでなくお母さん自身の身体にも目を向ける時間をつくってほしいという気持ちを込めて、「お母さんが元気で笑顔でいましょう」をテーマに産後リハビリテーションを実施しています。当院での活動は産後翌日~10日目の産後直後の方を対象としているため、早期の予防的な介入ができます。内容は、産後のマイナートラブルの説明、立位姿勢や授乳姿勢の評価・指導、日常生活動作指導、骨盤底筋群運動などの集団リハビリテーションを実施しています。参加したお母さんからは「専門の方にしっかりと集中して教えてもらえる。自分の身体と向き合える時間がもててよかったです。」「前に産んだ病院では、このようなリハビリがなかったので、初めて知ることが多くて参考になりました。」「産後ケアの大切さがわかりました。」という感想を頂いております。
現在、コロナ禍のため院内での活動は中止していますが、NPO法人ワーカーズ・コレクティブちろりん村のご依頼で、感染症対策を十分に行った上で産後リハビリテーションの出張医療講座を実施しました。産後3~5ヶ月のお母さん5人を対象に、実技を中心に産後のマイナートラブルの説明、立位や抱っこ姿勢の指導、骨盤底筋群運動などを行いました。依頼先でも産後リハビリテーションの講座を開催することは初めての試みでしたが、「自分の体のことを産後あまり考える時間がなかったのでよかったです。」「家でもやってみようと思います。」など、参加したお母さんや依頼先のスタッフから今後の定期的な講座開催の希望もありました。
実際に産後リハビリテーションを実施している中で、身体症状は産後直後から育児経過の中でも大きく変化することを改めて実感しました。また、姿勢指導や骨盤底筋群運動などは集団リハビリテーションの1回の指導では獲得が難しいです。定期的に介入することで、個別の身体症状の変化に合わせた介入が可能であり、母体の回復や症状の予防、治療的介入の必要性を早期発見することが可能であると考えます。近年、全国的に子供がいる夫婦世帯における妻の有業率は上昇していますが、産後の離職者の数も多いです。当院が所在する西東京市は、全国及び東京都よりも子育て期の女性で働いていない方が多いというデータもあります。今後も院内だけでなく地域の女性が住みやすい街づくりも目指し女性の社会進出に貢献できるように活動していきたいです。
文責:
佐々総合病院 リハビリテーション科 理学療法士 多田梓