この度、第34回日本靴医学会学術集会に参加しました。今年は新型コロナウイルスの影響により、初のWEB開催の学会となり、9月11日~10月31日の間、開催されていました。世間では外出規制や徹底した感染予防対策を行っていましたが、日常生活の中では不安や不便を感じる事が多々ありました。しかし、WEB上の学会になったことで良い事もありました。自分の良いときに聞きたい発表を聞き、聞き逃しても一時停止や動画時間を遡れることができますし、場所も時間も制約されずゆっくり発表を聞くことができたのはWEB上の発表ならではと思いました。また、他分野の学会にも参加することもあり、たくさんの発表を聞く中で同じように悩んでいる人や、「こうゆう考え方もあるのか」と毎度発見があります。実際に各先生方にお話しを聞くことができる機会ですので、学会への参加は私の中でのマストアクションなのです。
今回、発表した演題は「靴紐を締める・締めないによる小児の歩容の変化」です。靴学会への演題発表は3回目となり、1回目は「変形性膝関節症に対する足底挿板療法―第4報:FTAと足部形態について―」、2回目は「観察による歩行分析―足底挿板の作製に関して―」です。私が所属している戸塚共立リハビリテーション病院は、足の専門医である内田俊彦先生が在籍しており、その下で足底挿板(以下、インソール)を作製しています。私は理学療法士1年目からインソールを学び、作製してきましたが、インソールを始めたきっかけは単純で、「おしゃれにしても、スポーツにしても靴が好きだった」からです。「インソール」と聞くと「難しそう」と一目置かれがちですが、大前提は「靴」なのです。
今回の発表では、対象者は小児ということで、Jリーガやオリンピック選手を輩出している、強豪スポーツクラブでサッカーをしている小学生を対象に行いました。発表内容の要約として、靴紐を締めない場合よりも締めた場合の方が9割の子供たちの歩容が改善されたということです。靴をブカブカに履いて歩くよりも、きちっと靴紐を締めて歩いた方が歩き姿勢がいいということです。当たり前のように思われますが多くの人は実践できていませんでした。さらには、子供も、その親もコーチも自分の足のサイズをはっきりと認識しておらず、良い靴の選び方、正しい靴の履き方を知らない現状でした。みなさんは自分の足をどこかで測った経験はありますか?多くの人はNoです。靴販売店でも教育現場でも医療機関でも教えてくれることは多くはありません。靴先進国のドイツでは初等教育の中で正しい靴の履き方を取り入れており、地域に1件はシュー・マイスターという国家資格を有した専門家が経営している靴店が存在し、足のサイズ計測や靴選びを子供や親と一緒に行う程、靴は身近な存在です。しかし、日本では靴や足にフォーカスを当てられることは殆どありませんし、足に悩みがある人が相談にいく場所は少ないです。医療機関に行っても靴をみてくれるところは殆どありません。では、靴が足に合っていない状況が長年続くとどうなるでしょうか。多くの文献では下肢疾患(変形性関節症や、外反母趾などの足趾変形)を有する人は靴が大きすぎる場合が多いというデータがあります。(中には小さすぎる場合もありますが)。大人になって様々な下肢の変形疾患を患っている人は、遡ると子供の頃からのケガ(捻挫等)や、靴のサイズ間違い、間違った靴の履き方を長年続けていたことが影響するといわれています。
私が働いている病院でも患者様だけでなく職員からも足や靴の相談を受けることがあります。すぐに「インソールを作製しなくては!」ではなく、まずは足と靴について、見て、触って、「あなたの足のサイズは〇〇ですよ、〇〇cmの靴の方がいいかもしれません。」「靴はこのような物を選ぶといいですよ。」とアドバイスをするだけでもいいのです。私たちがインソールを作製するときは、対象者の主訴、視触診、歩き方の観察・分析はもちろんですが、足のサイズ計測と靴の観察を行います。先ほども述べたように、まずは「靴」と「足」なのです。どれだけ良いインソールを作製しても、靴が合わなければその効果は半減してしまいます。私たちが行わなければいけないことは、足のサイズを教えること、正しい靴の履き方を教えること、靴の選び方であり、足元を整えてあげることです。もし、インソールだけではなく、靴に興味がある方や足に困っている方がいれば、ぜひ私たちの病院へ一度足を運んでみてください。
文責:戸塚共立リハビリテーション病院 理学療法士 石川早紀
• NPO orthotics-society認定 Foot care trainer(Master)
• 東京2020オリンピック競技大会 野球・ソフトボール メディカルフタッフ